アレクサンドル=パーヴロヴィチ=ロマノフ
このマンガには一度しか出てこなかったが、爆走編のウラでいろいろ苦労の多い人生をおくった人である。
大黒屋光太夫に馬車を貸したロシア皇太子パーヴェルの長男は1777年に生まれ、歴史的英雄アレクサンドル・ネフスキーにちなんで命名された。エカテリーナおばあちゃんは初孫を溺愛し、 嫌いな息子をすっとばして皇位を継がせようとしたのでパーヴェル父ちゃんは激怒した。アレクサンドルはどちらも大好きだったので困ってしまった。
彼はフランスかぶれのスイス人教師に啓蒙思想を植えつけられたが、宮廷の外の社会は何も知らなかった。1801年に即位するとさっそく改革を試みたが、 理想と現実は違うので朝令暮改の試行錯誤が続いた。それで後世の歴史家からは二枚舌だ精神分裂だと言われて悔しかった。
ナポレオンが攻めて来ると、 アレクサンドルはドイツから招いたクラウゼヴィッツたちと焦土作戦を決行し、みごと撃ち破った。しかし「戦争と平和」ではクトゥーゾフの手柄になってしまいがっかりした。
アレクサンドルはヨーロッパ共同体の夢を実現すべくウィーン会議を主催したが、みんな自分の国のことしか考えないので失敗した。映画「会議は踊る」 で風刺されたので腹が立った。
アレクサンドルは属国ポーランドを訪問した際に、歓迎式で音楽院の学生がエオロメロディコン(どんな楽器なのだろう?)を演奏するのを聴き、 感動してダイヤの指輪を賜った。すなわちフレデリック・ショパンを初めて国際的に評価したのはこの人なのである。皇帝はポーランドの独立を約束していたが、 彼の死によって果たされず、ショパンは一生ロシアを恨み続けたのは悲しい事であった。
晩年は神秘思想に傾倒した。1825年に崩御が発表されたが、人々は 「何もかもイヤになってシベリアにでも隠遁したのではないか」と噂した。
※このように報われぬ一生だった陛下だが、フィクションにおいてはカッコよく決めたこともある。 水野英子の名作「白いトロイカ」はプガチョフの乱からパーヴェル暗殺までを自由に脚色した物語で、アレクサンドルは主人公たちがピンチの時に荒野の果てから突然現れて、 悪い前皇帝をやっつけてくれる。すげえご都合主義だと思いきや、読み返したらちゃんと序盤から出ていたので、水野先生の構成力に感嘆させられるのだった。
十二234-235
アンリ=トロワイヤ「アレクサンドル一世」(1987.中公文庫)・デヴィッド=ウォーンズ「ロシア皇帝歴代史」(2001.創元社)・H=カレール=ダンコース 「エカテリーナ二世上・下」(2004.藤原書店)・小坂裕子「ショパン」(2004.音楽之友社)・水野英子「白いトロイカ」全二巻(2002.講談社漫画文庫)
レザノフ/津太夫/エカテリーナ女帝/ パーヴェル/ナポレオン

目次へ戻る