国松?
すこやかなる老屠
だいたい作中で引用されている文章が記録のすべての人物。一般の歴史書や時代小説ではこういう階級の人たちのことは書かれないのだが、時代劇で撮っていい世界、 玄白たちが封建倫理に縛られて生きている「士農工商」の外側には多種多様な人びとが存在していた。変死者の検死とか死刑の後始末になると彼らが働いて、独特の利権をも持っていた。 仕事だからあんなナリをしているけれど、年貢や社交費とは無縁だし、家では平民より贅沢な暮らしをしていたかもしれない。
もともと漢方医学のほうでも、現実遊離の観念化しすぎていた状況を自己批判し、実証主義に立ち戻ろうという一派(古医方)が出ていた。 京や長州などでちょくちょく公開腑分けが行われ、じいさんも若い頃から数人を解剖したという。跡を継いでいた孫の虎松が急病になったので、ひさびさに現役復帰して腕を振るったのである。
よく読めば分かるように虎松というのは孫の名で、祖父の方の実名は永久に不明であるが、説明が面倒だから多くの時代小説ではこのじいさんを虎松にしている。 まあ、代々の襲名という可能性もあるね。今回NHKのドラマ化に当たって、国松という名が設定され、小林隆さんが怪演した。
※六田登『週刊マンガ日本史28号 杉田玄白-日本近代医学の夜明け』(2010.朝日新聞出版)は玄白の一生など無視してこの人に焦点を合わせた大胆な構成で、 短編漫画として秀逸な出来になっている。一読の価値あり。
四131-138五286十二283
幕末一11九40
A・「蘭学事始ぴあ」(2017.ぴあ株式会社)・塩見鮮一郎「江戸の貧民」(2014.文春新書)・富士川游「日本医学史綱要1」(1974.平凡社東洋文庫)
杉田玄白/前野良沢/解体新書の仕上げを手伝っていた謎の坊主頭の男 /中川淳庵

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