イド&ジャップ
犬だから「人物」じゃあないのだが、せっかく参考文献を見つけたので書いておこう。
いまペットショップで「チン」と呼ばれているのは、 奈良時代に大陸から輸入されたスパニエルっぽい小型犬にいろいろな品種が混ざって日本独自のペットになったものだという。しかし江戸ではテリアでもなんでも個人所有の小型犬を 「狆」と呼んでいた。逆に、たまさかペリーがアメリカに持ち帰ったタイプだけが「日本のチン」として認識されるようになったらしい。
通説ではペリーが徳川将軍から贈られたことになっているが、幕府公式の贈答品目録には犬は入っていない。また正式のプレゼントならすべて合衆国政府の所有になるはずである。 下田を船出する直前のドサクサに非公式に持ち込まれたので、現地の役人がくれたやつとかペリー達が自分で買ったものが最低8匹いたようである。何匹か航海中に死に、 また何匹かは大統領に届け、残り2匹がペリー家に飼われることとなった。
ペリーの娘の回想によると、黒と白のオスが「イド(江戸?)」、茶と白のメスが「ジャップ(最初は差別語ではなかったらしい)」という名前。訪問した新見伊賀守の従者の日記には 「衣類を嗅ぎ、日本人なるをしりて、大いに悦び、踊ることきわまりなし。膝に上り、袂をはずみ、さらに側をはなれず。・・・また帰るに臨みては別れをおしみ、 跡をしたうそのさまは人のごとし」とある。犬の人情に感動した一行は泣く泣く屋敷を辞去したのだった。
この二匹自身は直接の子孫を残さなかったそうだが、 欧米中に評判を呼んでチンブームが起こり、英国王室はじめ先を争って買いまくるチン騒動となり、多少貿易赤字解消に貢献したみたいです。
幕末編二十三85
仁科邦男「犬たちの明治維新」(2014.草思社)
ペリー

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